• 辻信一

ウイルスと私たちの「あいだ」(2) ザック・ブッシュ

コロナ禍という経験を通して、私たちが学ぶべきことは多い。中でも、この一年で、ぼくの世界の中でただならぬ存在感を示すことになったのは、ウイルスである。近年、微生物の集まりを表すバイオームが今や、世界を語る時になくてはならない概念となったように、せめてウィルスの集合体を表すヴァイローム(ウイルス叢)という言葉を覚えて、自分のこれからの新しい構えをつくるために活かしたい。


前回に引き続き、ザック・ブッシュのホームページから、「ヴァイローム」というコラムを紹介しよう。



<ヴァイローム>

過去30年のマイクロバイオーム研究は、私たちが抱いている人間の健康に関する見方に、根本的な転換が必要だということを教えてくれている。


何世紀にもわたって、西洋の医学は微小生物に対して戦争を仕かけてきた。皮肉にも、その戦争は私たちを救うのではなく、私たちを殺そうとしている。なぜか。それは、自然との敵対関係にあるどころか、私たちは自然の産物だからだ。今や、この現実を受け入れられるかどうかに、私たちの生存はかかっている。しかも、早く。そしてもう一つ、私たちが理解しなければならないことがある。自然は知的であるということだ。その知性が、私たちがマイクロバイオーム(微生物叢)と呼ぶシステムを通して、全ての生命を満たし、結びつけていることを、科学は解明しつつある。そのマイクロバイオームは、遺伝子の水平移動、エクソソーム、そしてウィルスなどの働きを通じて、遺伝子の多様化を実現する驚くべき力を発揮している。


人間の健康が歴史上最も極端な衰弱を経験する中で、私たちは驚くべき発見にいき着いた。人間の健康にとって、その中心は人間の細胞ではない、という発見だ。それに代わって中心に立ったのは、腸をはじめとする内臓のうちで、ちょうど土が植物を育てるのと同じ働きをするマイクロバイオームだ。それこそが人間の健康を左右している。バクテリア、菌類、寄生生物、そしてウイルスについてのこうした新しい科学は、これまでつくりあげられてきた生医学的なモデルーゲノミクス、プロテオミクス、炎症、発がん、免疫、感染症などーの組み立て直しを迫っている。


過去三十年、小児慢性病、不妊症、若者の新陳代謝障害などの急増という破滅的な事態を人類は経験してきた。それに加えて、私たちは現在、成人における神経変性とがんの感染症的な流行を目のあたりにしている。これらの病が描く増加曲線の軌道から予測されるのは、人口の急減であり、一世紀ほどのうちに人類が絶滅するかもしれないというシナリオである。さらに悪いことに、土壌システム、水システム、そして大気システムについてのマイクロバイオーム研究によると、こうした人間の健康と生存の危機は、地球そのものの健康と生態の衰弱の兆候に他ならない。


しかし、希望はある。私たち自身の軌道を変えることだ。微生物との戦争というやり方を止める。そして、自分の内と周りに展開する生命の現実を受け入れ、抱きしめるのだ。今すぐそうすれば、人類にはまだ望みがある。


マイクロバイオーム、そしてすばらしい情報通信網であるヴァイローム(ウイルス叢)を、敵としてではなく、私たちの救世主として捉え直さなければならない。もし、この速やかな方向転換ができるなら、私たち人類は自然界との共創的なパートナーとなって、人類絶滅を避けることができる。それができれば、この惑星にかつてない豊かな生物多様性と生命力をもたらすために、貢献する機会を私たちは得ることとなるだろう。


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