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森の再生は、僕たちの再生  藤井芳広

福岡の糸島に棲んでいるふじいもんです。2003年から2010年まで、東京でナマケモノ倶楽部の活動に参加し、理事やボランティアスタッフをしていました。

2010年に福岡に移住してからは、糸島でのローカル活動が中心になっています。糸島に移住してすぐに仲間と「いとなみ」というNPO法人を立ち上げました。持続可能なコミュニティづくりに取り組む「いとなみ」では様々な活動をしているのですが、大きな柱は森づくりと東アジア交流です。今日はそのうち、森づくりについて書かせていただきます。

 
NPO法人いとなみのロゴマーク

森の再生


日本の森は、現在様々な問題を抱えています。

思いつくものを書き出すと

・杉・ヒノキの人工林が間伐されずに放置されていて、土砂崩れが起きやすくなっている ・同じ植生ばかりで、かつ森に光りが入らないので他の植生が育たず生物多様性が損なわれている ・水源としての機能が低下している、かつ水源自体が消失している ・ダムによって水循環が停止している ・干潟や海辺に砂が供給されず、生態系が破壊されている ・木材の輸入により海外の原生林が破壊されている ・森に獣たちの食べ物がなく、里に下りざるを得ず、それによって獣たちが駆除されている ・蜜源の減少と、それによるミツバチの減少 ・森から農地に変えたところが手を入れられず耕作放棄地になり、荒廃している ・バイオマス発電による木材の瞬間利用(CO2の増大)と森林破壊 ・太陽光メガソーラーによる森林破壊と再生能力の低下 ・皆伐による森林破壊と植生の急激な変化による生態系の破壊 ・農薬や除草剤による土壌汚染 ・放置竹林の拡大


などなど、です。


そして、それらすべての原因をつくり出しているのは森ではなく、人間です。

そういう意味で、一番の問題は人間のあり方、だと思っています。

それは、人間と森の関係性の喪失であり、 森をカミや聖地や宇宙ととらえる感性や精神性の喪失であり、 森とともに暮らす智恵や技術の喪失であり、 神話や物語を語り継ぐ文化的な力の喪失であり、 スターナビゲーションのような見に見えないものを感じる直感力の喪失、だと言えます。

その失ってしまったものをどうやって取り戻していくのか、を考えた時、僕は、森に入り、森と関わることでしか取り戻せないのではないか、と思っています。

なので、僕は森づくりを、ただ森を再生するということではなく、森の再生を通して、森と人間の関係性を再生し、感性や精神性や文化を再生していく、という意識で取り組んでいます。


     真名子の森


森の視点


そんな想いで、「森の再生」に10年とりくんでいるのですが、10年続けていると森の見え方が変わるというか、世界の見え方が少し変わって、自分の中に森の視点とでも言うような視点が持てるようになってきました。それは未来からの視点とも言えるかもしれません。

森は、自分が死んだ後もこの世界に存在し続け、世界を見守り続けてくれます。そんな大きな存在に働きかけていると、未来と対話しているような、未来から今を見ているような感覚になってきます。自分を超えた大きなものが、自分の生活や活動の指標になり、ものさしになっていて、それは、航海の時に目当てにする星のような、とても大きな安心感につながっています。

映画「地球交響曲 第3番」で、ホクレア号に乗って古代の航海術によってハワイータヒチ間5000kmを航海したナイノア・トンプソンが、夜に航海していて、星が雲に覆われて見えなくなった時に、雲の上の星を感じることができ、航海することができた、と話しています。


僕はこの「見えない星を見る力」を取り戻すことが何よりも重要だと思っています。かつてはみんな持っていたのに、今は失ってしまった力。忘れてしまった力。でも、それはただ忘れてしまっただけ、眠ってしまっているだけで、みんなが根底に持っている力だと思います。


一人一人がそれぞれの方法で自然と向き合い、自分の中の自然と向き合い、目に見えないものを感知し、感受し、それを指標とすること。アフターコロナの世界において、最も重要かつ有効なのは、そのような自然を敬い、自然に感謝し、自然と対話し、自然とともに生きるそのようなあり方だと思っています。



環境再生

最近、サステナブル(持続可能)からリジェネラティブ(環境再生)へ、と言われています。持続可能は、端的に言えば一年間で生成される自然資源の範囲の使用に留めるということだと思いますが、環境再生は、自然資源を生み出す大元の森や土壌をより豊かにすることで、一年間で生成される自然資源の総量をあげるということだと思っています。


糸島でも、その環境再生型の森林農業のモデルづくりに取り組んでいます。その方法は大きく分けて2つあり、ひとつは、今の放置された間伐されていない杉・ヒノキの森を間伐し、光を入れることで、その土地に合った植生を復活させ、間伐を続けることで、一定も木材を調達し続けて木材自給率をあげながら、森全体における杉・ヒノキの本数を減らすことで、自然林を復活させ、水源を保護し、野生動物のすみかをつくるという流れで、これは今10年目です。 これは奥山と言われるような山の上の方で取り組んでいるのですが、近年植生の復活が目で見て感じられるようになってきています。

もうひとつは、今年から始めた、食べられる森づくり(food forest)です。もともと森を切り開いて農地にしたところが、高齢化などにより斜面が急で手が入れられず耕作放棄地になっている果樹園などの農地が日本の田舎にはたくさんあります。

その果樹園で、無農薬・無肥料の果樹を収穫しながら、剪定によって、果樹を減らし、果樹以外の植生を生かすことで、耕作放棄地の解消と、森の再生と、蜜源の確保と、生物多様性の保護をすべて同時にやってしまおうという取り組みです。こちらは、里に近い場所でやっていて、森と里の間のバッファー的な場所になると思っています。

食べられる森づくりは3カ所でやっているのですが、そのひとつのみかん山で収穫した甘夏を、カフェスローのパフェに使っていただいています。また、無農薬・無添加の100%ストレートの甘夏ジュースも商品化して販売しています。720MLのビンで、一本1400円(税込)+送料でお届けできます。ご希望の方はご注文いただけたら幸いです。itofoodforest★yahoo.co.jp (★を@に変えてお送りください)


この、環境再生に関しては、現時点で、生態的サービスなど科学的に解明できているものは一部だと思っているので、数値では計れない、西洋型の環境よりももっとホリスティックな東洋的でタオ的でアニミズム的で宇宙的な環境再生が、森を再生することで達成できると考えています。




森を中心にしたコミュニティ・経済


また、この環境再生型の森林農業を核にしたコミュニティづくりと、そこに電子地域通貨PEACE COINを導入することで新しい経済のモデルづくりも始めています。


僕は、これからのコミュニティや経済は、森を守り、環境を再生させるために存在する、と考えているので、それを核においたコミュニティを、これまで進めてきた持続可能なコミュニティづくりを進化発展させる形でつくっています。 ブロックチェーンの登場により、地域通貨の導入と運営のコストが大幅に下がり、通貨の自給が昔よりも容易になっています。それにより、これからの社会に必要な価値基準に合った通貨を、市民自らの手で生み出すことができる時代になったんだと思っています。


GDPの上昇や資本の増加というような古い価値基準ではこれからの社会や経済は回らないし、すでに回っていません。地域の中で循環する経済圏をつくり、環境再生や森林再生という価値基準や、未来という視点を盛り込んだ通貨をその中で回し、その地域が自律分散しながら横でつながっていく、そんな社会がもうすぐやってくると確信しています。



ノアの箱舟

僕は、今糸島でやっていることはノアの箱舟をつくっていると思っています。でも、それは糸島だけが生き残ればいい、糸島に来た人だけが生き残る、ということではなくて、この地球そのものがノアの箱舟だと思っています。この地球そのものが未来に種と生き物と生態系を残し運ぶための船であり、それを未来に届けるのが今を生きる僕たちの責任だと思っています。

すべての種(たね)と種(しゅ)をひとつも欠けることなく、未来に送り届ける、それが未来との約束だと思っています。ただ、種(たね)も種(しゅ)もその土地固有のものなので、ただ種だけを残せばいいのではなく、それが生きられる生態系やエコシステムや流域そのものを残すことが重要であり、だからこそローカルや、コミュニティや、自律分散が重要なんだと思っています。

そういう意味での糸島がノアの箱舟ということであり、すべての場所がノアの箱舟であり、聖地なんだと思っています。



 

藤井芳広

NPO法人いとなみ 代表/糸島市議会議員 滋賀県生まれ。2003年よりナマケモノ倶楽部に参加、様々な環境活動・社会活動を行う。2009年には韓国を100日かけて一周歩く「walk9/韓国巡礼」をコーディネート、国を超えた環境運動・平和運動の必要性と可能性を実感する。

2010年、東京から韓国やアジアから近い福岡県糸島市に移住。仲間とともにNPO法人いとなみを結成し、森の再生とアジア交流を核とした循環型コミュニティづくりに取り組んでいる。 2014年には糸島市議会議員選挙に立候補し、当選(現在2期目)。2020年、「糸島 food forest」を立ち上げ、食べられる森づくりを進めている。

NPO法人いとなみ  https://www.facebook.com/npo.itonami/

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