• 辻信一

“しあわせの経済” フォーラムから、一年 (その1)

最終更新: 11月10日

「“しあわせの経済”国際フォーラム2019」から今日でちょうど一年。あの頃を振り返ると、早かったような、そうかと思うと、遠い昔のような気もする。アメリカから、メキシコから、オーストラリアから、タイから、中国から、パレスチナから、イギリスから来てくれたゲストたちの顔を思い浮かべてみる。コロナ禍のせいで彼らとの間にできてしまったディスタンスを感じながら、それぞれの場所で様々な困難の中で活動する友人たちのことを思って感慨無量だ。一年前の記録を引っ張り出して、聞き直したり、見直したり、読み直したりしてみたい。


そのフォーラムでは、ミュージシャンの小林武史さんも登壇、クルック・フィールズでパーマカルカルチャー・デザインを担当する四井真治さんとともに話を聞かせていただいた。ちょうどおととい、クルック・フィールズでの収穫祭を訪ね、小林武史さんの屋外ライブも聞かせていただいたばかりなので、その時の写真を交えて、一年前のトークを振り返りたい。




小林武史×四井真治×辻信一 トークセッション

2019年11月9日

辻:小林さん、四井さん、今日はありがとうございます。小林さんとは久しぶりですね。

小林:10年近くご無沙汰しちゃったけど。お互いそれぞれ、暗中模索でもないけど、色々トライしてたんだと思うんですけど。

辻:そうですね。でも、ずっと僕は意識してましたよ。

小林:どういう意識かな(笑)。僕、さっきヘレナさんの話を聞かせて頂いて。ヘレナさんともね、ラダックのことで15年前、ある雑誌で対談したことがあるんですけど。いや凄い。何ていうんですか、ビック・ビジョンというか。やっぱり彼女の話していることに全てが体系的に整理されてあるなあ、と感じました。

辻:たった30分なんですけどね。

小林:いやもう素晴らしいですね。本当に。

辻:うん、必要なことがすべてそこにあるという感じですよね。どうですか、四井さん?ヘレナの話きいて。

四井:やっぱり、人間って、意思があるはずなのに、なぜか違う力が働いていてしまっていて、お金は本来ただの道具であるはずなのに、それを目的にしちゃって人々が動いてしまっている。それが一番、世の中を狂わせてしまっている原因なんだなと感じました。

辻:システムの問題だっていうことをヘレナは言いますね。ぼくら、どうしてもこう、アイツが悪いとか、この会社が悪いっていうふうに、考えがちだけれども、彼らもまた同じシステムの中で動かされている。やっぱり、その視点を忘れちゃいけないと思うんです。

小林:そうですね。昔から、いきなりブッダの話を出すのも何なんだけど、ブッダの時代でも、個人が偉大なことをやったのだということを示したいというのがずっとあったでしょ。まあ主に男性なんでしょうけど。それが大航海時代、植民地主義、そして現在のグローバリズムということなんでしょうけど、ずっと受け継がれてきている。ここにやっぱり、ヘレナも言ってたような、人間も自然の一部なんだっていう昔からあった知恵をたくしこんで、その知恵の世界を続けていかなくちゃいけないと思う。同時に今はもう本当に、彼女が言うようなビック・ビジョンをもつ活動というのが必要になってきているんだと思いますね。

辻:一方でそのビック・ピクチャーがどんどん見えにくくなっていくという力が働いていますよね。システムが見えないように、仕向けてるんじゃないかと思うくらい、社会はますます専門化して、縦割り、タコツボ化して、全体が見えなくなっていく。それで、そういう全体的なピック・ピクチャーをもっていたブッダとか、キリストとか、老子とか、あの時代の人たちの知恵が、今になってまた非常に必要になってきている。そんなことを感じます。さて、あの16歳のグレタさんのことでが、ちょっと訊きたいんですよ。グレタさんは、上の世代であるぼくらに、すごい怒りを向けられているわけだし、挑戦を受けているわけですよね。もう経済成長なんていうおとぎ話はいい加減にしろと。どうですか?

小林:今おっしゃった、まさにその一文が、やっぱり最も響く。今の時代に、それを最も痛い部分として捉えなくちゃいけないことなんだけど、どうもそこが、特に日本では、何となく曖昧になっちゃって。グレタちゃんの志みたいなものを、“ピュアで純粋な思い”みたい言い方で、一見、優しさのようなもので包んでしまっているけれど、本当はものすごく鋭いあの発言に対して、誰も本当に、まだ向き合いきれてないでしょう。トランプ大統領をはじめ、ね。グレタちゃんもそうですし、香港のことを見ても、今年はなにか、未来へのバトンを受け取る側が黙っているべきではないということが本当に露呈してきた年だなと。今年はそういうふうに記憶されるんじゃないかって思うんですね。

辻:確かに、世界中で、「もういい加減にしろ」という声が上がっていますね。それが世代間の対立みたいな形をとっているのは不幸なことだなと思います。そのグレタに代表される若者たちの動きを上の世代が支えなければいけないと思うし、同時に、若者が感じている怒りとか、恐怖とかを、何とか愛のエネルギーに変えていくことができないかな。そういうお手伝いができないかなんてね、そう思っています。

小林:そう思いますね。いい言葉がなかなか見つからないから、僕リアルと言っちゃうけども、例えば、愛情の形でも、今までは見えなかったいろんなリアルが見えるようになってきていると思うんですよ。たとえば、来年のオリンピックですけど、パラリンピックがもの凄いエキサイティングなものだっていうことが段々わかってきている。前は、なんかこう福祉的な優しさのベールで包まれていたけど、そこにもやっぱり、もの凄いエキサイティングな何か潜んでいた。そういうリアルがどんどんどんどん見えてきていると思うの。農業でもそうだよね。微生物の世界もそう。

辻:なんかこう、大きな物語が崩れて、その間からリアルが見えるようになってきているという、そんな感じかな。

四井:今、今日ここにいる皆さんもそうかもしれないですけど、リアルじゃなくなっちゃっていると思うんですよ、暮らしが。みんなボタン一つ押せば何かができたり、お金があればコンビニで食べ物が買えたり。でも本来だったら、食べ物を得るのには、それなりにいろいろなプロセスがあって、いろんな仕事があって、いろいろな人たちや生き物たちの関わりがあって、ぼくらはそこから生きる糧を引き出すことによって、持続可能な暮らしを営んできたはずじゃないですか? でも便利さに大きな価値をおいて、モノが売れていったその代わりに、どんどん皆さんの暮らしがなくなっていった。そういうリアルじゃない世界を創っちゃったと思うんですね。

小林:そうだね。リアルが見えてきている一方で、システムはどんどん新しいフィクションのようなものを、「こういうものなんだ」と押しつけてくるというのはあるよね。

四井:その失われたリアリティーを皆、みな潜在意識で求めている。それが今、こう噴き出てきたような状況なんじゃないかな、と。


辻:さて、ここでそろそろ、クルック・フィールズの話をうかがいたいと思います。こういうことをやろうといつ考え始めたんですか?

小林:ap bankという、環境のことを考える団体、ヘレナさんとも出会うキッカケとなる団体を作ったのが2003年なんですけれども。まあ、環境問題の解決のために融資するというか。先程も話に出ましたけれども、お金は道具なんだから、それを使って何かしようじゃないかと。

辻:その“ap”の意味をみなさんに説明してください。

〈小林〉

Artist PowerとAlternative Powerのダブル・ミーニングでつけたんですけど。

<辻>

パワーという言葉も、力とエネルギーという二つの意味がダブルにかけてある。オルタナティブ・パワーは代替エネルギーという意味もあるわけで。なかなか深いダジャレです。

小林:その活動をやっている中で、自分たちの思いを実践に移したいという仲間が集まって、それでできたのがクルックという法人なんですけれども。

辻:クルックって何語でしたっけ?

小林:フィンランド語で、キュウリという意味です(笑)。


辻:じゃあ、クルック・フィールズは、キュウリ畑だ!

小林:多様な言語の中から、語感でクルックに決めました。キュウリも花が咲くんですよね。アンディー・ウォーホールのヴェルヴェットアンダーグラウンドっていうバンドの、バナナを使ったわりと有名なジャケットがあるんですけど、それのパロディなんです。ぼくたちのデザイナーが、たまたまぼくの部屋に来た時に、家庭菜園のキュウリの花が咲いているのを見て。その頃、ぼく、Bank Bandっていう冗談みたいな名前のバンドをやっていて、その売上を全部ap bankのために使うっていうことになった。

辻:みなさんはご存じですかね、Bank Band。懐かしい。

小林:ミスター・チルドレンの桜井(和寿)君と一緒に創ったものなんですけど。それのジャケットが胡瓜に花が咲いているという奴で。

辻:そうか、そこから来ているんだ。

小林:そうなんですよ、ほら、ポップアートって、一つの価値観のカウンター的な捉え方というか、アートに対してもう一回見直しだと思うんですけど、商業もそういう表現になりうるな、と。ぼくらはCDを作るという商業的な営みを循環に置き換えることもできるんじゃないのって。そこから生まれるお金をだから、それ以降、1円も受けとってないんですけど。生意気なことを言うようで、あれですけど、こうやってやっているのも、そもそも、90年代に音楽のもの凄いバブルみたいな時期があって、そこで僕が音楽プロデューサーとしても、ミュージシャンとしても、すごい利益を得たということがあって、このお金って何なんだっていうことから、すべて始まっていることなんですね。さっきも、企業の話をしてたけど、大企業の中の考えは外にはなかなか見えてこない。でも、そこには利潤追求をしなければならない仕組みがたくさんあって、それが壁となって、それを超えるのが、なかなか難しいんだろうとは思うんですよ。だから、偉そうにするつもりは全然ないんですけど、ぼくの場合は、お金をとならないで循環に回すことで、このクルックという営みがどういうふうに、皆の中でどんな役割をになっていくのか、ずっと実験しているんですね。

辻:なるほど。そうするとクルック、キュウリっていうのは、ある意味、お金が通用しない世界のシンボルですよね。そして、小林さんがいうお金の循環も含めて、すべてが循環していくような世界へと、どうやって戻っていったらいいか、というメッセージがそこにあるということなんでしょうね。

〈小林〉

あ~、いいことを言ってくださいました。ありがとうございました。

(続く)



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