アメリカで盛り上がるワーカーズ・コープ

更新日:9月30日


以前このブログで取り上げたこともある、ローカル経済のエキスパート、マイケル・シューマン。2019年11月の「しあわせの経済」国際フォーラムに講師として参加、各地で講演もしてくれたので、覚えている人もいるだろう。


コロナ禍で苦境にたつローカルビジネスのためにアメリカで大奮闘している彼は、今年、「ザ・メイン・ストリート・ジャーナル」というオンライン通信を発行し始め注目を集めている。今日は、その第7号を紹介したい。そのテーマは、今日本でも話題のワーカーズ・コープについてだ。コロナの時代のアメリカで、今、ワーカーズ・コープ(英語ではワーカー・コープともいう)が大いに盛り上がっているようなのだ。


以下、マイケルのメールの文面と、彼がオススメのニュースのリストを見てほしい。次に、その中に出てくる「マザー・ジョーンズ」誌の記事「自分のボスになろう」は、特に面白かったので、訳してみた。現在のワーカーズの盛り上がりが、決して一時的なものではなく、深い歴史的根っこを持っていることがわかる。(以上、辻信一)


ザ・メインストリート・ジャーナル(v.1 n.7)

<ワーカーズ・コープの素晴らしき世界>

9月16日

マイケル・シューマン

ワーカーズ・コープ(労働者協同組合)は、アメリカではまだ、他の多くの先進国で見られるような尊敬と人気を得るには至っていない。例えば、スペインのバスク地方では、モンドラゴン社が8万1千人の労働者を擁し、96の労働者所有・運営の協同組合と14の関連研究開発センターを運営している。また、イタリアで最も経済的に豊かな地域のひとつであるエミリア・ロマーニャ州では、地域総生産の3分の1をワーカーズ・コープが担っている。


だが最近では、米国でもワーカーズ・コープへの関心が爆発的に高まっているのだ。それもそのはず、労働者協同組合では、従業員に公平性と尊厳を与えるだけでなく、従業員の年金や将来の貯蓄のための地元での投資機会を提供しているのだから。本号では、農業、繊維、そして新興の大麻産業など、米国各地で誕生している独創的な地域労働者協同組合のニュースをご紹介しよう。また、「従業員オーナーシップ支援ファンド」がワーカーズ・コープに重点的に投資するという記事も掲載されている。

          ーーマイケル・シューマン、メインストリート・ジャーナル発行人


ニュース


・労働者が経営するコンポスト協同組合がボストン大学と契約、ネクストシティ(2021年9月7日)

・従業員所有のカタリスト・ファンドが地元のビジネスと雇用を守る、フィフティ・バイ・フィフティ(2021年9月6日)

・自分のボスになろう:協同組合ビジネスが労働者パワーを取り戻す(Be Your Own Boss: Co-op Businesses Return Workers' Power)、「マザー・ジョーンズ」誌(2021年9月+10月)

・大麻をめぐる正義と労働者所有の協同組合薬局(Marijuana Justice and Worker-Owned Cooperative Dispensaries)、シティー・リミッツ誌(2021年8月31日)


自分のボスになろう:増加する協同組合ビジネスが労働者パワーを取り戻す>

 “私が会社のために働くんじゃなくて、会社が私のために働いてほしい”

ライター:アリッサ・クウォート 

「マザー・ジョーンズ」 2021年9−10月号


レネー・テイラーは忙しい。その日、「タマレ、タコス、ライス、ピコ」というその日のメニューのリストに沿って、500食分の食事をつくっていた。テイラーは52歳、シカゴ地域のさまざまな刑務所に25年間収監された後、2013年に釈放されてからは、フードサービス会社「チ・フレッシュ・キッチン」のために食事の準備と配達をしている。この仕事はただのレストランではない。テイラーは自分の職場の一部を所有しているのだ。チ・フレッシュ社は、5人の労働者オーナーのもので、全員が服役経験者だ。


労働者協同組合では、労働者が事業を所有すると同時に運営も行う。オーナーになるためには購入しなければならない場合もあるし、理事会に代表者を置く場合もある。労働者オーナーは、収益と経営権が自分たちに帰属するため、協同組合の経済的成功から直接的な利益を得る傾向がはるかに大きい。米国の中小企業に占める協同組合の割合はまだ小さいが、パンデミックとその余波が、その普及を後押しすることになった。非営利団体である米国労働者協同組合連合会の政策ディレクター、モー・マンクラングによると、現在、米国内で確認されている労働者所有の協同組合は465あり、2013年から36%増加している。また、さらに約450社が今まさに生まれようとしている。


今日の深刻な所得格差、企業の統合と組合潰し、そして実際に得られる仕事がますます不安定で一時的なものになっていることを考えれば、人々が自分たちに力を取り戻すことに魅力を感じるのも不思議ではない。協同組合開発組織「Wellspring Cooperative Corporation」の共同ディレクター、エミリー・カワノによれば、協同組合に関心が集まっているのは、単に給料を得ることではなく、「生きかた(livelihood)」を作ることへと、人々が回帰していることを意味している。


小売業の仕事を転々としていたテイラーは、最初はオーナーになることに不安を感じていたが、チ・フレッシュ社が主催する、簿記をはじめとするビジネスの基礎を学ぶ無料クラスなど、めったにない機会が与えられていることで、すぐに気持ちが打ち解けたという。彼女は言う。「ビジネスに関するすべてのことを学びたいと思っているの。そしてこのビジネスを成長させたいと」


2021年5月、ニューヨーク市の3人のドライバーが、Uberによる仕事の搾取にうんざりしたタクシードライバーたちが運営する配車アプリの会社、「運転手協同組合(The Drivers Cooperative」」を立ち上げた。それが今や、3500人のメンバーからなる全国最大のワーカーズ・コープになったというのだ。その共同設立者であるエリック・フォーマンは、教師であり、組織オーガナイザーでもある。タクシー運転の免許も持っている彼のもとを、不満を抱えたドライバーたちが訪ねてきては、「自分たちでアプリを作れないだろうか」と相談したことが、この協同組合を作るきっかけになったという。この事業に取り組みはじめた当初、オーナー運転手たちは、コロナの非常事態の中で、緊急支援食料の配達をしたり、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員の要請で、最初の顧客となる人々を期日前投票所へと運んだりもした。


「労働者たちは、自分の仕事をもっとコントロールしたい、自分の仕事場を持ちたいと思っています」とフォーマンは言う。ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)では、乗車料金から25%の手数料を取られるが、運転手協同組合では、手数料15%、さらに利益が出た場合はドライバーに配当金として渡すことを目指している。フォーマンはこの協同組合を組織するにあたり、ドライバー同士の関係を構築し、「意識改革」につながることを期待して、オンライン授業を運営したり、Zoomでドライバーたちに自分の経験を語ってもらったりした。ニューヨークのハイヤードライバーは91%が移民で、黒人、先住民、有色人種などのマイノリティであることも少なくない。協同組合は、「所有について考え直すことを通じて、人種間の公正についても再考を促す」モデルにもなると、フォーマンは言う。


労働者協同組合への新たな関心の盛り上がりは、コロナの時代に、連邦政府や地方政府への失望を経験した人々の反応としても理解できるだろう。ハーバード大学をベースとする「The Economic Tracker」によると、パンデミック前の2020年1月と比較して、2021年6月に開業中の中小企業の数は、37.5%も減少している。それも一つの原因となって、何百万人もの人々が解雇されている。「不況の中、人々は労働者協同組合に目を向けました」とマンクラングは言う。「これは、政府が事態に対応できないときに人々がとる、典型的な行動なんです」


似たような事態の中で労働者協同組合運動が盛り上がったことがある。南北戦争後の1880年代のアメリカで、協同組合の多くは黒人たちによって設立された。『集団的勇気:アフリカ系アメリカ人の協同経済の思想と実践』の著者であるジェシカ・ゴードン・ネンバードによれば、「奴隷制度から解放されて働きに出たとき、最悪の仕事、家賃を払ったら何も残らないような最低の賃金しか得られませんでした」。ビジネスの世界から締め出され、銀行からも見放された黒人にとって、「協同組合こそが生き延びる方法だった」というわけだ。19世紀末から20世紀初頭にかけて、解放された黒人たちは各地で相互扶助協会を立ち上げた。彼らは会員からの会費を貯蓄して葬式や埋葬の費用に充てたり、未亡人や孤児を財政援助したり、お金や労働を融通しあって農場を購入したり、運営したりした。


(世界恐慌後のアメリカの)ニューディール時代にも、また似たような協同労働への情熱が高まった。1932年、ロサンゼルスのコンプトン地区の失業者たちが市外の農家と連絡をとり、労働力と食料を交換する仕組みを構築したのをきっかけに、「自助協同運動」が展開された。(食料以外のものを生産する協同組合もあった。例えば労働者が経営する「ワシントンD.C.コープ産業」では樽を製造していた)。そして、これらの協同組合は大恐慌時代の先まで生き延びた。1960年代、70年代にも、数百もの協同組合が存在していたのである。


そして、2020年のパンデミックを機に、労働者を中心とするビジネスアプローチであるワーカー・コープのパラダイムが再び注目されるようになった。チ・フレッシュを考案したコミュニティ・オーガナイザーのカミーユ・カーは、協同組合を元受刑者の女性たちにとっての雇用機会としてとらえた。また、「ヒエラルキー(上下関係)なき所有」という考え方を推進するためのよい方法だと考えたという。例えば、毎週のメニューをオーナー兼労働者たちが話し合って決めるのだ。カーは言う。「パンデミックをきっかけに、お互いのニーズを満たすこと、そしてお互いのニーズを満たすためのインフラを整えることに注力する必要性を感じたんです。自然災害というものは、必ず起こる。集団で所有すること以上によい方法があるでしょうか?」


また、労働者による所有は、しばしば給与の向上にもつながる。「職場の民主主義協会Democracy at Work Institute」の調べによると、オーナー労働者は1時間あたり平均19.67ドルを得ており、これは一般企業の従業員の時給より7ドル以上高くなっている。チ・フレッシュのオーナー労働者は、時給18ドルで、週40時間の労働が保証されている。また、マンクラングによると、労働者協同組合は一般企業より倒産率も低いという。今年の初め、カリフォルニア州選出のロー・カーナ下院議員は、サンタクララ大学で行われたタウンホール・ミーティングでこう発言した。「労働者協同組合は、いかにわが国の労働者・中産階級を確固としたものにするか、という問題の解決策の一つです」


とはいえ、労働者協同組合の設立や運営の道がいつも平坦だというわけではない。マンクラングの見方によると、銀行やその他の投資家たちは、従来のビジネスに対するのとは違って、協同組合を邪魔するような傾向がある。「通常のビジネスモデルは、一人か二人がオーナーで、その下に働く人たちがいるというものです。通常、企業への融資は一人か二人に対してするもので、十人以上に対してではありません。協同組合はその点、不利ですね」。また、政府も協同組合を冷遇する傾向があるという。パンデミックの間は、連邦政府の補助金が中小企業を支えたかもしれないが、ほとんどの労働者協同組合にはその資格がないと判断されたため、補助金は受けられなかった、とプロパブリカ誌の報告記事も伝えている。


こうしたリスクにも関わらず、筆者が話を聞いたオーナー労働者たちにとって、労働組合は十分やる価値のあるものだ。そう思えるのは、何よりもオーナー労働者というあり方が、彼らに「自分は自分の主人である」という感覚を与えてくれるからかもしれない。「私たちは自分たちで賃金を決め、定期的にミーティングを行っています」と言うチ・フレッシュのテイラーはこうつけ加えた。「私が会社のために働くんじゃなくて、会社が私のために働いてほしい」

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