アフガニスタンの状況に心を痛めながら、半世紀前のベトナムのことを思い返している。
数日前、友人のライター・研究者、田中一彦さんがFBでこう発信した。
アフガン情勢は、今の世界の矛盾が凝縮されて一気に噴き出した印象です。ベトナム戦争とはまた別の様相を呈しているようですが、フランスの人類学者レヴィ=ストロースがユネスコの機関誌『クーリエ』(1952年)に投稿した記事は、今も有効でしょう。「アジアはヨーロッパに対して物質的かつ倫理的な債権を持っている」と題する訴えにはこう記されています。
「未開のアジアを、一次資源や労働力の搾取、そして新市場に吸収される可能性が強く懸念される世界経済の中に力ずくで引っ張り出したことで、現在ではそれを打開する責任を課せられている危機を図らずも引き起こしたのが当のヨーロッパだということは、いくら強調しても強調しすぎることはない」
もちろんアメリカもその一翼です。この主張が受け入れられるにはあと何年かかるんでしょう。グローバリズム資本主義の中で途上国が負う負債の帳消しは、こうした債権との関係なのかもしれません。日本が無縁でないことは言うまでもありません。
これに対するぼくの返信。
ありがとう、田中さん。このところ、続けてトム・クルーズの「7月4日に生まれて」と、NHKの「映像の世紀」のベトナム戦争編を見ました。半世紀を経て、同じことの繰り返し。人類は何を学んだのか。そのかげでどれだけの人々が犠牲になったのか。中村哲さんの言葉を読み返しています。
以下、最新の「ペシャワール会報」に載っていた、中村哲さんの2006年の発言(『ニッポンを解剖する 養老孟司対談集』より)から、一部、抜粋させていただきたい。題して、「先進国はアフガンという「田舎」が怖いのだ」。なお、なお、中村さんは、アフガニスタンの首都に、日本で一般的なカブールではなく、カーブルという表記を使っている。
中村哲:・・・日本で報道されている話には、眉ツバなのが多いんです。たとえば、「アフガニスタンには教育がない」なんていう。「子どもたちが、学校に行ってないんですってね」と。でもあちらでは、家の手伝いをすることが職業教育、小さい時からコーランを暗唱して、毎週金曜日にモスクに行くことが道徳教育です。基本的なことはきちんとやっているわけで、あそこで微分・積分を教えてどうする(笑)。それなのに、干ばつで、はらぺこで、逃げようかどうしようかというときに、突然、外国人が来て、「あんたたちがこんなに惨めなのは、教育がないせよ」と鉛筆を配ったりして。ほんとに、ウソみたいなことが起きている。「教育が崩壊している」といわれる日本が、アフガン復興で教育に携わると聞いたときは、冗談じゃなかろうかと思いましたけど。
・・・便所をつくる運動なんかもありますけど、よけいなお世話というか、人糞というのは、あちらでは貴重な肥料なんです。・・・アフガニスタンは農業社会で、そのなかでは子どもの労働というのが非常に大事なんです。それを一部のNGOや国際機関が、「児童労働」とか称して、あたかも悪いことのように批判して。
・・・昔は日本でも、当たり前でしたよね。それを「みじめで、かわいそう」とか。アフガニスタンには、長老を頂点とした家長中心の序列が生きていて、それは農業生産を維持していくために必要なシステムなんですけど、新聞によれば、どうもそれもデモクラシーに反するらしくて。こういうと誤解を招くかもしれませんけど、そんなデモクラシーは、いらないんじゃないかと思います。
私、とくに違和感があるのは、日本では、アフガニスタンがえらい危険な場所だと思われていることなんです。9.11のテロ以来、首都のカーブルの映像ばかり流れるから、どうしてもそう思われてしまう。でも、私たちが活動している農村地帯から見ると、カーブルは、宇宙都市ほどかけ離れた空間です。よく、私たちが「農村部へ行く」というと、日本大使館から「危険地帯ですから気をつけてください」といわれるんですけど、そもそもなにをもって「危険」というのか。
・・・
実際、土地の人と親しくなって溶け込んでしまうと、これほど安全なところはないんです。私たちも、水路の発破作業を攻撃と間違えた米軍から機銃掃射を受けたことはありますが、地元民から攻撃されたことはない。地元民にしてみれば、水が手に入るかどうかは死活問題ですから、手伝うことはあっても、じゃまはしない。
・・・逆に、大使館が「安全だ」と言うカーブルは、しょっちゅう自爆テロなんかになあっている。そういう意味では、一番危険な場所なんです。
思うんですけど、今日本を含めた世界の主な国では、農村が消えて、都市空間ばかりになっていますよね。そうすると、そこから突然、アフガンの田舎のようなところへ行った人は、あまりの隔たりに不安になって、「怖い」と感じるんじゃないでしょうか。アメリカ人なんか、カーブルのオフィスから一歩も出ない。もちろん、米国への嫌悪感が強くて、出ると狙撃されると言うのもありますけど、彼ら24時間電気がついて、テレビがあって、という生活じゃないとダメですから、アフガンの田舎なんか、「月世界」っていったような感じなんでしょう。だから、カーブルのわずかな都市空間に、必死でしがみついている。
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