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執筆者の写真信一 辻

会津にオーガニックの風が吹く



サマースクールを主催したNPO・KOTOWARIのうのこうたくんが住み込んで、農業を学んでいる「無の会」を訪ねた。予備知識はほとんどなかった。名前がいいな、と思ったと、サマースクールの食事の食材がそこから提供されているというのを聞いて、驚いた。とにかく、美味しいのである。ぼくには珍しく、毎回、味噌汁や野菜料理をお代わりしていた。


前回紹介した、サマースクール報告の中に、こう書かれていたことに気づいた方もいるかもしれない。


プログラム中は完全ベジタリアン食、食材は会津屈指の有機農家「無の会」のお米と野菜、お味噌を無償で提供していただきました。


なんと、無償とは? いくら「無の会」だとはいえ! そのすぐ後に、参加者からの感想がいくつか紹介されている。

  • 「生産者も作る人もすべて見えるものを食べることは、自分の体に取り入れるものにより意識を向けるきっかけになった」

  • 「当に美味しくて、毎回の食事がとても楽しみでした。食事はただ空腹を満たし身体を作るだけのものではなく、自然とのつながりや作られた方の想いなどを伝え、喜びや感謝で心を満たしてくれるものだという感覚を実感できたのがとても良かったです」

  • 「優しさと、素敵で純粋な思いとお野菜がたっぷりで本当に美味しかったです。KOTOWARIのご飯が私の体の一部になってたくさんのことを学べたことに感謝しかないです。今、家庭のご飯を食べるのが怖くなっているのが少し課題です…」

その晩は、「無の会」主宰者の児島さんご夫妻の家に、泊めていただいた。もちろん、美味しい夕食と朝食をご馳走になった。そして、何よりありがたいことに、小島徳夫さんから直に、じっくり持論を聞かせていただいた。


児島徳夫、70歳、元英語の教員。スーパー林道建設反対などの運動に参加。教員をしながら10年かけて、独自の有機農業を確立。数町ずつの畑、田んぼをあちこちに経営、この規模はこの地方で最大だという。趣味の農業なら、有機とか、何とか農法と言って議論するのも結構。しかし、生業としての農業なら、まず基本に、経営が成り立ち生計を立てられる農業を目指すのかどうか、つまり、儲かるかどうか、がなければならない、と考える。「無の会」の二つのキーワードは、科学と経営だ。科学と言っても、化学肥料や農薬、そして工場式の農業のことではない。経営と言っても、金儲け主義や成長至上主義のことではない。児島さんは、化学はもちろん、植物学、微生物学、土壌学などに詳しい。あれだけ大規模に、あれだけの経済的成功をおさめているオーガニック農場は少ないのではないか。


作務衣でぼくの真ん前に座っている姿も、その毒舌ぶりも、立川談志を彷彿とさせる。一見酒豪

だが、一切飲めないのだそうだ。でも、「今度来た時には、美味しいオーガニックワイン」ご馳走するからね」と気を利かせてくれる。口は悪いが、とにかく、底抜けに優しいのである。


児島さんが今、一番情熱をかたむているのは、若い後継者の育成だ。こうた君はじめ数人の若者たちが働いている。三年で一人前にしたいと児島さん。自分自身の生き死にを超えて、日本の地域と、農業が再生する道筋を作りたいのだ、と。


翌朝6:30より、児島さん自ら、畑や田んぼを案内してくださる。ぼくと同じくサマースクールから流れてきた4名の若者たちと一緒だ。


まずは田んぼを見せていただく。慣行農業の田んぼと隣り合わせている場所で、双方の稲を見比べてみる。その違いは歴然としている。茎の強さ、緑の濃さ、葉っぱの太さ、穂のつき方・・・。「無の会」の田の畔を歩くとバッタの群れが飛び立つが、慣行田の方は、不気味なほど静かで動きがない。


堆肥場、機械置き場なども見学する。なす、トウモロコシをもぎってそのまま食べさせてくれる。ナスもうまいが、生のトウモロコシの甘さに驚く。


より詳しく知りたい人は、「無の会」のFBページや、「児島徳夫コラム」というサイトがあるので見てみてほしい。そこには、例えば、児島さんのこんな言葉が紹介されている。


わたしは会津のこのあたりの土地全部を有機無農薬に変えたいの。この里すべてに蛍でもなんでも、生態系がよみがえって、生き物が全部生きられるようになる。孤軍奮闘で簡単ではないですけど、そのための第一歩が「無」の会というわけです。

 なぜ「無」の会なのかって、よく聞かれますが、わたしは無とか空(くう)とか、そういう仏教的な概念が好きなのね。きれいさっぱり何も無いって、きもちいいじゃないですか。

 で、何もないところから、自分で考えて、試行錯誤して農業やっていく。失敗しても失う物はなにもない。すべては無から生じる。まぁ、そんな意味を込めたといえば、もっともらしいですけど、単に好きなんですね、この言葉が。

 わたしの米で作ったお酒の名前は「風が吹く」(製造販売:白井酒造)っていうの。この「風」もね、わたしにとっては同じ様な意味合いの言葉です。ボブ・ディランもいいけどね(笑)


この最後のボブ・ディランが決定打となって、ぼくはさっき、「風が吹く」を2本を注文した。






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